暗然天真交響生活音楽隊

となりの部屋から、男性と女性の声が聞こえる。

壁越しなので女性の少し小さい声は冷蔵庫や蛍光灯のノイズにほとんどかき消されてしまっているが、

男性の声は妙にはきはきした声でいて、近くの川岸を歩いた時のことを思い出した。

 

春になると向かいのアパートの軒下にはツバメの巣を見ることができる。

目的不明のくぼみから、毎春、ツバメの鳴き声が聞こえる。

親鳥はひな鳥に餌を与えるためか、あたりを飛び回っていて、いつも忙しそうだ。

巣から顔をのぞかせるひな鳥はあどけない顔をしているなと思うと、

つい最近は親の体とほぼ変わりない大きさに成長し鳴き声も随分うるさくなっている。

この向かいに住む元気な不法滞在者は夏にかけて、いつもどこかへ行ってしまう。

どこに消えたのだろうか?

 

 

僕の部屋のベランダには黒くて立派な羽が落ちていることがある。

カラスだ。

鳥類によく見られる特徴だが、カラスも同じく、目が円らでいて挙動不審なさまがかわいらしい。

カラスはスバメの巣を漁ることがある。漁るとはどういうことか。

食事のメニューでも決めているのだろうか。数回啄む。

そうしてカラスが去った後、静けさが残る。

自然とはこういうものなのだ!!と知った風な顔をして、窓越しの空を眺めていると

巣に親鳥が戻ってきているではないか。

親鳥が巣に近づくとピーピーとわめき始めるひな鳥。

それさっきやれよって思ったけれど自然とはこういうものらしい。

今日を生きる強制退去された不法滞在者はまさに空を渡っていくのだろう。

 

さて男性と女性の情事が終わったみたいだ。

壁厚くしてくれ~!